産業看護基礎教育における産業看護学教育について(案)
日本産業看護学会では、産業看護学が看護基礎教育のなかに位置づけられ、看護職となるすべての学生が修学することをめざしております。そのため、教育研修委員会では、看護基礎教育における産業看護学を修学する目的およびそのカリキュラムを検討しております。その原案が以下のようにまとまりましたので、ご覧いただきご意見をいただけますようよろしくお願い申し上げます。
看護基礎教育において産業看護学を修学する目的
- 看護専門分野の一つとして産業看護分野があることを知る。
- 労働および労働生活を学び、あらゆる看護分野において労働者でもある対象者の理解を深める。
- 臨床看護と産業看護が連携することで、対象者の健康支援の継続を図る。
- 看護職自身が労働者として安全かつ健康に働くための視点をもつ。
看護基礎教育における産業看護学カリキュラム
1.目的
看護基礎教育において産業看護学を学ぶ目的は、
- 労働者あるいはかつての労働者であった対象者を全人的に理解すること
- 対象者の健康を連続して看護すること
- 看護職自身が安全かつ健康に働けるための視点をもつこと
- 産業看護という看護職の活躍の場を知ること
の4つにある。
医療の場は、感染や腰痛などのリスク、長時間労働、交代制勤務などの健康障害につながる要因が多数存在している。ゆえに、看護学生が将来看護職として働くときに、安全に健康に働くための知識が必要である。また、看護の根本となる対象者の全人的な理解には、対象者が労働者の場合は、労働生活の場である企業や組織、働くことの意味や状況、労働による健康影響を知る必要がある。それは、退職後の対象者の人生を理解するうえでも重要な視点となる。
さらに、労働生活やそこで行われている安全保健活動の理解は、病院から地域そして職域へとつながる連携を生み出し、対象者への連続した看護を提供できる。なお、看護学生が産業看護を学ぶことで就労の場の多様さ、ならびに看護の広がりを知るとともに看護の質を高めることもできる。
2.目標
- 産業看護の基本的知識を説明できる。
- 対象者が生活するひとつの場としての職場を理解し、そこで労働生活を送る人であるという視点をもつことができる。
- 対象者の生活する場で行われている健康支援活動を知り、連続した看護の必要性を考えることができる。
- 自らが働く医療の場をイメージして、潜在・顕在している健康課題を見つけ出し、その予防策を計画立案できる。(2単位のみの目標)
3.産業看護学カリキュラム
カリキュラムは教育機関の実情にあわせて実施できるように、1単位用と2単位用を起案しました。
(1)1単位用カリキュラム
1 | 産業保健・産業看護の理念と歴史 | 産業保健および産業看護の歴史を踏まえて産業看護の理念を理解する。 |
2 | 企業と労働生活の理解 | 労働者である対象者が働く場所としての企業、組織を理解する。 |
社会的および経済的側面を踏まえて労働の概念、労働(働くということ)を理解する。 | ||
労働生活上のライフステージを踏まえた労働者の成長発達を理解する。 | ||
3 | わが国における産業保健・産業看護の現状 | 労働と生活の関連と労働者の健康状態の現状を理解する。 中小零細企業における産業保健活動の現状を理解する。 |
4 | 労働安全衛生関連法規 | 法規および法規に基づく労働安全衛生管理体制を理解する。 |
5 | 職業性疾病とその予防対策 | 職業性疾病と3管理の視点から職業性疾病対策を理解する。 |
6 | 産業看護活動 | 健康診断の種類と看護職の役割、保健指導、職場巡視について知る。 |
7 | 産業看護活動の実際 | 健康づくり、メンタルヘルス、過重労働対策とその実際を知る。 |
8 | 臨床看護と産業保健の連携、産業保健の健康課題および動向 | これまでの講義内容を踏まえ、臨床看護と産業保健の連携を考える。 労働災害防止計画を踏まえ、産業保健の健康課題および動向を理解する。 |
(2)2単位用カリキュラム
1 | 産業保健・産業看護の理念と歴史 | 産業保健および産業看護の歴史を踏まえて産業看護の理念を理解する。 |
2 | 企業と労働生活の理解 | 労働者である対象者が働く場所としての企業、組織を理解する。 |
社会的および経済的側面を踏まえて労働の概念、労働(働くということ)を理解する。 | ||
3 | 労働者の理解 | 労働生活上のライフステージを踏まえた労働者の成長発達を理解する。 |
働くということ(労働観)を理解する。 | ||
4 | わが国における産業保健・産業看護の現状 | 労働と生活の関連と労働者の健康状態の現状を理解する。 中小零細企業における産業保健活動の現状を理解する。 |
5 | 労働安全衛生関連法規 | 法規および法規に基づく労働安全衛生管理体制を理解する。 |
6 | 産業保健活動の進め方と看護職の役割 | 3管理、5分野を理解する。 |
産業保健計画に基づく活動の進め方を理解する。 | ||
チームの一員としての看護職の役割を理解する。 | ||
7 | 職業性疾病とその予防対策 | 職業性疾病(特別化学物質、有機溶剤、電離放射線、粉じん、石綿)と3管理の視点から職業性疾病対策を理解する。 |
8 | 職業性疾病とその予防対策、作業関連疾患 | 職業性疾病(騒音、熱中症、VDT作業)と3管理の視点から職業性疾病対策を理解する。 |
作業関連疾患について理解する。 | ||
9 | 産業看護活動―個別支援 | 健康診断の種類と看護職の役割、疾病管理、保健指導 |
10 | 産業看護活動―集団支援 | 職場巡視と職場改善、健康教育 |
11 | 産業看護活動―個別支援と集団支援の展開 | 健康づくり、メンタルヘルス、過重労働対策など |
12 | 産業看護活動の実際 | ゲストスピーカーあるいは活動事例を通して産業看護活動の実際を知る。 |
13 | 医療現場で働く看護師の健康課題の理解 | グループワークなどを通して健康課題を特定する。 |
14 | 医療現場で働く看護師の健康課題の対策の計画立案 | グループワークなどにより特定した健康課題の対策への計画を立案する。 |
15 | 臨床看護と産業保健の連携、産業保健の健康課題および動向 | これまでの講義内容を踏まえ、臨床看護と産業保健の連携を考える。 労働災害防止計画を踏まえ、産業保健の健康課題および動向を理解する。 |
カリキュラムへのご意見を募集いたします
皆さまの意見やアイデアを取り入れながら、よりよいカリキュラムを作っていきたいと思っています。ご意見、ご要望などあれば下記コメント欄からお聞かせ下さい。※2016年2月28日まで
[contact-form-7 id=”122″ title=”産業看護カリキュラム(案)へのご意見”]